2004.02.12
北海道医療新聞社発行 月刊誌『ケア』2月号に掲載
COPDに関する大道院長の解説記事です
■静かに進行を続ける喫煙が原因の病気
COPDとはChronic Obstructive Pulmonary Disease の略で、日本語では『慢性閉塞性肺疾患』と訳されている。日本語で表記されると、おそらく肺などの病気であることはわかってくるでしょう。
COPDは、単一の疾患ではなく、肺気腫と慢性気管支炎の終末像を表す総称で、どちらの病気も気管支内の空気の流れが悪くなってしまう病気です。
日本ではCOPDのうち肺気腫の患者様が多い。 そして肺気腫の原因となるのが、たばこ。 たばこが原因となる病気には肺がんがもっとも多く知られていますが、肺気
腫もたばこが原因となる代表的な病気のひとつです。
日常の診療のイメージでは99.99%と言えるくらい、肺気腫と診断される患者様の原因は、たばこにあると考えられます。その他では、ごくわずかに遺伝性の疾患がある場合です。
一方慢性気管支炎は気道の炎症を繰り返すことで過剰に粘液が分泌されて、気管支などの気道を細くしてしまう病気で、石炭による昭和の初めの大気汚染などの粉塵や慢性副鼻腔炎(蓄膿症)などが主な原因。COPDに肺気腫の患者様が多いのは、慢性気管支炎のどちらの原因も現在では少なくなったことが関係しています。
ただし、患者様によっては程度の差はあるものの、肺気腫と慢性気管支炎の両方が見られる場合があります。
人間が呼吸で取り入れた空気中の酸素は、気管支から肺の奥にある肺胞に届
けられ、ここで血液中に酸素を入れている。
この大切な役目を果たす肺胞に起こる病気が肺気腫。
肺胞はいくつかの肺胞と隣り合って接しており、肺胞と肺胞を仕切っている壁を肺胞壁といい、隣り合う肺胞が一つの気腔になります。これを繰り返して病気が進行すると、その気腔はますます大きくなっていくのです。こうしてできた気腔が大きくなると、より多くの空気を取り込めるようになると思う人もいるかもしれないが、実際にはそうはいかない。
肺胞を家に例えるとわかりやすいでしょう。部屋の一つひとつが肺胞だとします。
この部屋の壁を壊すと確かに空気は広くなりますが、壁に埋め込まれている電線や電話線、水道管も壊れてしまい、それらの設備が機能しなくなります。
肺胞では、ガス交換をする血管が肺胞を取り巻いており、肺胞壁が壊れると血管も壊れてしまい、ガス交換の効率が低下していくのです。
この病気はゆっくりと進行し、息苦しさなどの自覚症状が現れるころには、病気も大きく進行しているケースが多く見られます。
また肺胞が壊れると気管支を拡げる力が弱くなり、気管支が閉鎖するのです。
■かぜなどの感染症が発症の誘因になることも
肺気腫は壊れた肺胞が二度と元に戻らないうえ、早期では自覚症状が現れにくいことが、この病気の恐ろしいところ。
肺気腫が進行し、動作をしていて息苦しさを感じると、その人の行動範囲は徐々に制限されていくので、本人や周囲の人から身体の異常に気が付くことがあります。しかし高齢者の場合は本来の動作が少ないこともあって、なかなか異常に気付かずに病気の進行が続いてしまうこともあり、注意が必要です。
それまで症状が現れなくても、かぜやインフルエンザの感染症が肺気腫の症状を引き起こすことがあり、感染症が治ってもしばらく身体の異常が続いて医療機関
を受診し、肺気腫が見つかることが多いです。
肺気腫の診断は肺機能検査の結果から病気の可能性を指摘することができ、その後でCTを使って精密な検査をすることで確定できます。
肺機能検査は、最大限に息を吸い、それを思い切り強く吐き出したときの肺活量(努力性肺活量)と、最初の1秒間に吐き出される空気の量(1秒量)を測定し、この二つの比率(1秒率)で検査をします。正常な数値は1秒量が努力性肺活量の7割以上を示しますが、この数値が7割以下になると閉塞性の障害を疑います。
閉塞性の障害には、喘息も含まれるが、気管支拡張剤を使って検査すると、喘息は1秒率が改善を示すのに対し、肺気腫では1秒率の改善がみられません。
また、軽度の肺気腫の場合、肺機能検査では異常が見られないこともあります。
確定診断をするためには画像診断が必要です。特にヘリカルCTを使うと早期の肺気腫でも診断が可能です。
CTを使った画像を見ると、肺は空気の部分が黒く、心臓や血管などの生体の部分は白く写る。正常の肺胞は空気と肺胞周囲の血管の合成像なので、正常な肺の画像は比較的黒が多いものの、全体に薄く白いもやがかったように見えます。
肺気腫の患者さんは肺胞壁が壊れて大きな気腔となるので、その部分はもやが白っぽくならず、明らかに黒く写る部分が確認できます。
■喫煙者だけでなく 非喫煙者も注意が必要
COPDの治療は、それ以上の進行を止めることが中心。
まず、たばこは厳禁!です。 また、たばこを止めたからといって、その時から進行が止まるわけではないのですが、喫煙を続けると肺気腫の急激な進行も考えられます。
治療には気管支拡張剤を使ったり、COPDが進行した人は在宅酸素療法が必要になります。
在宅酸素療法は高濃度の酸素を吸入するもので、そのための機械を自宅に設置し訪問看護や定期的な受診をしながら使用します。 また、COPDの患者様は呼吸困難などの症状があっても、通常の社会生活は可能であり、外出時には携帯用の酸素ボンベを使います。
外へ出ずにじっとしていては体の筋力も衰えるので、積極的な社会生活が必要でしょう。
以前はCOPDの患者様の多くは男性でしたが、近年は女性の喫煙も増加しており、女性は男性に比べてたばこの害が現れやすく、20年から30年後には女性の肺気腫が大幅に増えることが心配されています。
また、喫煙者だけでなく、喫煙者が近くにいる人も肺がんと同じようにCOPDになる可能性が高くなります。
喫煙者は非喫煙者の近くでたばこを吸わないなど、社会的なルールを守ることが求められています。
COPDはかぜの感染症をきっかけとして症状が出てくることがあります。
特に冬期間は長引く体調の異変を感じて受診し、COPDと診断される
患者さんが増える時期です。COPDと診断されたり、疑われた人は
インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種をして、こうした
感染症の予防にも努めてください。
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